スタジオ大四畳半

四畳半から一軒家に昇格。

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ヨカチンと僕―幼年期の記憶

      2015/03/09

 奥歯に違和感を感じて保険センターの歯科に予約をしたその予約日が本日だったので、昼過ぎに弥生の研究室から本郷へとポトポト歩いていると、いきなり断末魔の悲鳴のようなものが聞こえた。途轍もないナニカに怯えて胸の奥底から無理矢理に搾り出された空気が声帯を震わす音。僕は小学生時分にこの悲鳴を実際に何度も聞いて知っている。

 通称「よかチンチン爺」と呼ばれたその初老の男性は、僕の通う小学校の通学路に週に2度ほど出没しては、「ハァアアアーッ!見れば見るほどよぉーかチンチンッ!ッギヤアアアアアアア!!」という、常人の”言葉の引き出し”には決して入っていない語感で構成された奇声と共に、いたいけなバンビーノ達を追いかけ回して捕まえては下腹部を揉みしだくという、マイケルジャクソン顔負けの恐るべきネバネバーランドを僕たちの通学路上に築き上げていた。小学校のほぼ全校生徒が彼の存在を認知し、彼と遭遇してしまう事を大いに恐れていたわけなのだが、不思議と学校がこの件に対して何らかの対策を講じることはなかったと記憶している。これは由々しき事態だったのではないかと今更にして思うのだが、たぶん当時は性に対しておおらかな時代であったのだろう。

 話を元に戻すと、弥生から本郷に入ると不意に奇声が聞こえてきたわけである。何のことはない、本日は大学入試の合格発表らしいとのことだった。偶然にも「目の保養にチア部の女の子を視にきたよ。ゲハハハ」という、自分に正直に生きておられる尊敬すべき研究室の先輩方にその合格者発表会場でバッタリと出くわした。僕たちは受験生たちに混じって合格者ゴッコをして、暫し楽しい時を過ごした。

 歯科ではレントゲンを撮られ、紹介状を書くから「親知らず」を三本抜いて来いといわれた。痛いのは一本だけなのに、三本なんてそんな。嫌だったのでかなり見苦しく食い下がってみたが失笑と共に却下された。聞くところによれば、「親知らず」は食生活の変化から硬いものを食べることが少なくなり顎が萎縮しだした現代人で問題となっている歯なのだそうだ。僕はちょうどその過渡期に居合わせてしまったというわけである。「痛みを伴う人体の構造改革」なのである。なんてことだ。自分の歯が三本もなくなってしまうと思うと、ちょっと切なくなってしまった。

 切ないと言えば、少年時代を思い起こさせるノスタルジックな叙情的雰囲気は何とも気だるく心地いい。スティーブン・キングならきっとこう書くだろう。

「走って道路をわたったヨカチンは、そのまま二度とふりかえることなく、チャーニーの人生からそれっきり姿を消した。おそらくそれでよかったのだろう。」

 - 雑文 ,

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